新規開拓の前に足元を——既存のお客様から売上を増やす「深掘り」の方法
新規開拓の訪問に時間を割いているのに、成果は乏しい。その一方で、長年の顧客がこちらでも扱っている商材を他社から買っていたと後から知り、「うちから買ってもらえたはずでは」と悔しい思いをする——。「そんな商品も扱っていたの?」というお客様の一言に、心当たりはないでしょうか。
一般に、新しいお客様を獲得する費用は、既存のお客様との取引を保つ費用より何倍も大きいと言われます。にもかかわらず多くの会社で、営業の時間は新規に偏り、いちばん近くにある販路——既存客——が耕されないままになっています。
この記事では、既存のお客様から売上を増やす「深掘り」の考え方と、顧客リストの棚卸しから始める手順をご紹介します。
深掘りの3方向——頻度・併せ買い・認知
既存のお客様からの売上は、次の3方向で増やせます。
- 買う頻度を増やす:消耗品の定期化、点検・保守の周期提案、季節ごとの声かけ。「切れた頃に連絡が来る」は、お客様にとっても便利です
- 一緒に買う物を増やす:主商品に関連する品・サービスの提案。事務機器なら消耗品や保守、工事なら定期メンテナンス——「ついで」の提案は、信頼関係がある相手にこそ通ります
- 扱いを知ってもらう:意外なほど、お客様は自社の品揃えを知りません。「複合機の会社」と認識されていれば、椅子やネットワークの相談は別の会社に行きます
3方向とも、売り込みというより「思い出してもらう・知ってもらう」が本質です。既存のお客様は、こちらを信頼していないから他社で買うのではなく、単に「頼めると知らない」「その瞬間に思い出さない」だけ——このケースが非常に多いのです。
手順1:顧客リストの棚卸し
深掘りの土台は顧客リストです。名刺の束や請求書の控えのままでは動けません。まず1枚の表に整理します。
- 顧客名/最後の取引日/年間の取引額/買ってもらっている商品・サービス
- これを取引額順に並べ、次の3グループに分けます
- A:上位のお得意様——取引額上位2〜3割。最優先で関係を深める相手
- B:休眠客——過去に取引があるが、1年以上動きのない先。再アプローチの宝庫です
- C:単発客——一度きりの取引で終わっている先
とくに見逃されがちなのがB(休眠客)です。一度は選んでくれた相手であり、ゼロからの新規よりはるかに話が早い。「その後いかがですか」の一本の連絡から取引が再開する例は珍しくありません(離れた理由が不満だった場合は、それを聞けること自体が収穫です)。
リストの整理は、表計算ソフトで十分です。300社あっても、この棚卸しだけで「誰に何をすべきか」が見えてきます。
手順2:定期的な接点をつくる
納品したら次の故障まで接点なし——これでは、お客様の頭の中から消えてしまいます。売り込みではない定期接点を仕組みにします。
- 定期訪問・定期連絡の周期を決める:Aグループは四半期に一度、Bグループは年に二度、など。「近くに来たので」で十分です
- 役に立つ情報を口実にする:業界の動向、法改正やルール変更の情報、新商品の案内、活用事例——「売り込み」ではなく「情報提供」の形なら、訪問も連絡もしやすくなります
- ニュースレター・お知らせ便:紙でもメールでも、年数回の定期便は少ない手間で全顧客に接点を作れます
- 接点の記録を残す:いつ・誰と・何を話したかをリストに書き足していく。担当者の頭の中だけの関係は、その人が抜けると消えます
接点の目的は、その場で売ることではなく、「何かあったときに最初に思い出される位置」を保つことです。
手順3:「全部の扱い」を知ってもらう
「そんなものも扱っていたの?」をなくす、地味ですが効果の大きい打ち手です。
- 一覧できる道具を作る:扱い商品・サービスを1枚にまとめた「できることリスト」。納品時・訪問時・請求書送付時に必ず添える
- 納品のついでに一言:「実はこういうものも扱っていまして。もし今の調達先でお困りがあれば」——押し売りではなく、選択肢の提示として
- 事例で伝える:「同じ業種の○○様には、△△もまとめてご依頼いただいています」——他社の使い方は、いちばん想像しやすい説明です
これらは新規開拓と違い、費用はほぼゼロ、心理的なハードルも低い活動です。千葉県内でも、既存顧客との関係強化やリストの活用は、公的支援機関で相談できる販路づくりの基本テーマとして扱われています。
顧客リストの棚卸しから、一緒に始められます。
リストの整理の仕方、A・B・Cごとの打ち手、定期接点や「できることリスト」の設計——公的な無料の経営相談窓口では、既存のお客様という足元の販路を耕す計画づくりを一緒に行うことができます。新規訪問の前に、まず300社の宝の山の棚卸しから始めてみませんか。
まとめ
いちばん近い販路は、既にお付き合いのあるお客様です。深掘りの方向は「頻度・併せ買い・認知」の3つ。手順は、顧客リストの棚卸し(A:お得意様/B:休眠客/C:単発客)→定期接点づくり→「全部の扱い」を知ってもらう、の3段階です。
とくに休眠客への「その後いかがですか」は、費用ゼロで効果の出やすい一手です。新規開拓を諦める必要はありませんが、順番は足元から。耕された既存客の土台が、新規に挑む余裕を生みます。



