約2年のDXの取り組み、受発注のデジタル化でミスゼロを実現
駅前の小さな弁当店。店主夫妻と家族を中心に、数名のパートスタッフで切り盛りする、地域に愛される店でした。朝は仕込み、昼は販売、午後は翌日の準備と、毎日めまぐるしく動き続けるなかで、売上そのものは決して悪くありませんでした。 しかし、忙しさに追われるほど、現場では「確認漏れ」「伝達ミス」「書き間違い」が起こりやすくなっていました。特に電話注文や法人向けのまとまった注文では、数量や受け渡し時間の行き違いが発生し、作り直しや返金対応につながることも。 家族経営ならではの連携の良さで乗り切ってきた一方で、経験や勘に頼る運営には限界も見え始めていました。「このままでは、忙しくなるほど利益が残らない」。そんな危機感から、同店は受発注業務の見直しとデジタル化に取り組み始めました。
取り組み前の状況と仮説

取り組み前の受発注管理は、手書き伝票が中心でした。電話で注文を受けた内容をメモし、それを別の伝票に書き写して調理場へ渡す。店頭予約はノートに記入し、当日の朝にまとめて確認する——という流れです。一見シンプルですが、忙しい時間帯には記入漏れや読み間違いが起きやすく、特に数量・受取時刻・注文内容の細かな指定でミスが発生していました。 その結果、作り直しによる食材ロス、納品遅れへの対応、スタッフの残業増加が重なり、売上はあっても利益が残りにくい状態になっていました。加えて、誰がどの情報を持っているかが属人的で、店主が不在だと判断が止まる場面もありました。 そこで同店では、「問題の本質は現場の努力不足ではなく、情報の整理と共有方法にある」という仮説を立てました。受注情報を一元化し、誰でも同じ情報を同じタイミングで見られる仕組みを作れば、ミスとロスを大きく減らせると考えたのです。
新たな取り組み

最初に着手したのは、販売情報を正確に記録・確認できる環境づくりでした。店頭業務ではPOSレジを導入し、商品ごとの売上や時間帯別の動きを把握できるようにしました。これにより、感覚ではなくデータをもとに製造数を調整できるようになり、過剰製造の抑制にもつながりました。 あわせて、受注・連絡・確認事項の共有にはSlackを導入。電話注文や法人予約の内容、納品時間、変更連絡などを、担当者だけでなく調理・販売の関係者全員が見られる形に整理しました。用途ごとにチャンネルを分け、注文確定・変更・当日対応などの情報が埋もれない運用ルールも整備。 導入当初は「紙の方が早い」という声もありましたが、まずは一部の受注業務から開始し、使い方を絞って定着を優先しました。約2年をかけて運用を見直しながら、現場に合った形でデジタル化を進めたことが、継続につながるポイントとなりました。
問題の解決

取り組みの成果として最も大きかったのは、受発注に関するミスが実質ゼロになったことです。注文内容の見落としや伝達漏れが減ったことで、作り直しや返金対応はほぼ発生しなくなり、食材ロスと対応工数の削減が進みました。結果として、これまで忙しさの陰に隠れていた利益が見える形で残るようになりました。 また、情報共有の仕組みが整ったことで、店主や家族の誰かに判断が集中しにくくなり、現場の動きにも余裕が生まれました。確認のための口頭連絡が減り、スタッフは接客や品質管理といった本来注力すべき業務に時間を使えるようになっています。 改善によって収益体質が安定した同店は、パートタイム人材を2名増員。繁忙時間帯の負担を分散できるようになり、サービス品質の維持と働きやすさの両立にもつながりました。DXは大がかりな投資ではなく、現場の課題に合わせた小さな改善の積み重ねで成果につながる——その好例といえる事例です。
